スイカ
娘と息子の二人を連れて近所のスーパーマーケットに買物に出かけた。入口からはみ出るように陳列してある野菜や果物から、何か安いものはないかと物色を始めていると、息子がカートを引っ張り始めた。こんな時は何か欲しいものがあるからだが、普段は、もっと奥の方、つまりお菓子売場付近ですることである。
何が欲しいのかよく判らなかったが、カートの行く先を息子に委ねてみると、スイカの前に連れて行かれた。そこには娘もスタンバイしていて、どこから出しているのか、急にシナシナの声で訴えかけてくる。
「スイカ買って〜♪」
つい先週くらいから、安さが売りのこのスーパーマーケットにもスイカが並び始めていたことは知っていたが、さすがにまだ季節先行栽培だけに値が張る。
いくらと思ってるんだよ!とは言わず、一応、悩んだ振りをしてみる。
「やっぱ高いな〜、もう少し安くなってからね」
当たり前だ。買うわけがない。もう少しどころか、夏本番を迎えて叩き売りされるようになってからで十分だ。
しかし人目を気にして、悩んだ振りなどしたことがいけなかったのか、二人して肩を揺すってダダをこねる。
「ダメダメ!」
ここは強引にでもこの場を離れなければと思った矢先、ふと、目に透明のカップに入ったカットスイカが飛び込んできた。量は大したことないのに、300円もするが、何千円もするスイカを買わされるよりはマシである。
「これでいいか!」
私がカップを持ち上げると、娘は小躍りして喜んだが、息子は憮然としている。
「それじゃ〜、そんなんじゃ〜じいちゃんが食べるところないやん(ノД`)・゜・。」
「バカタレ。これをじいちゃんと3等分するんだよ。オレも一切れくらいは食うぞ!」
息子は何を言っているのか!という呆れ顔で、私を見上げている。
「ちがう。じいちゃんはスイカの皮を食べるの!」
「漬物?」
「漬物じゃない。スイカの皮」
「だから、じいちゃんは、スイカの皮の漬物が好きなのか?」
「ちがうって!」
息子はイライラしている。
「よくわからん」
「だからね。この前の夏ね。スイカの皮“を”食べたもん。“ウマかね〜”ってシマシマもぜ〜んぶ食べたとよ」
娘も、斜に構えて片口で笑って続けた。
「だけど、その後で、ばあちゃんに叱られてたけどね。」
「・・・」
息子よ。じいちゃんはスイカの皮も食べたかもしれない。食量を制限されているじいちゃんなら、ありそうな話だ。先日も、実家で、ヨメと冷凍パンを巡ってかなり激しい攻防があったらしい(※この話は後日、この結末はヨメも知らない展開に!息子談)しかしそこは“を”ではなく“も”だぞ。じいちゃんだってスイカの皮だけを好んで食べてるわけじゃない(_ _|||)。
しかし、しかし、それより重大な問題は、オレには、ばあちゃんのように叱れないということだ。ならば、より一層、皮付きのスイカなど買えないではないか。
私は、カップのカットスイカを籠に入れ、騒ぐ子供たちを無視してカートを先へと進めた。